不意に木々がざわめく。見上げると、
夕焼けの金色は既にもう夜の時間に押しやられ、
それでもなお名残惜しそうなすこしの赤が、
暗くまだらにかかった灰色の空。
地上のものは人工物もいきものも隔たり無く、
空に落ちた影のように一体化して抽象的になり、
すべてシンプルに点と線。
まるで魚眼レンズのように、
どこまでも続く景色はどこからか私を囲み、
一定の制限を超えて世界が自分の内側へと続いていく感覚に陥る。
そのころには私はもう空を見上げてはいない。
いくらかの自然の声色に助けを借りて
風が吹けば心はざわめき、雨が降れば泣き、
万物が気まぐれに囁く尊さにレンズを向け、
そうして静かに夜にのみこまれていきたいと思う。