フレスコジクレーについて
フレスコとは
「フレスコ」という言葉を聞いて、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。
ミケランジェロの「最後の審判」や「アダムの創造」、ラファエロの「アテナイの学堂」など、ルネサンスを代表する絵画を思い浮かべる方も多いかもしれません。
フレスコとは、イタリア語で「新鮮な」という意味。
その名の通り、壁に塗ったばかりのまだ乾いていない漆喰に、水で溶いた顔料を染み込ませて描く絵画技法です。
漆喰が乾燥していく過程で顔料がその内部に定着するため、表面に絵具を載せる一般的な絵画とは少し違います。顔料が漆喰と一体となって残っていく。それが、フレスコ画の大きな特徴です。
その古典的な仕組みを、現代のデジタルプリントに応用したものがフレスコジクレーです。
「紙」ではなく、漆喰にプリントする

フレスコジクレーの大きな特徴は、そこにあります。
一般的なインクジェットプリントでは、専用の用紙にインクを吹き付けます。
ところがフレスコジクレーは、そもそも普通の「紙」とは違います。
漆喰をシート状にした、特殊なプリントメディアです。
その表面には、通常のインクジェット用紙にあるようなインク受容層とは異なる、独特の質感を持つ未硬化の漆喰があります。そこへ顔料インクを吹き付けることで、インクが漆喰に浸透していきます。
つまり、
新鮮な漆喰に顔料を入れ、漆喰が硬化していく。

その基本的な考え方は、まさに古代から続くフレスコ画の原理に通じています。
さらにフレスコジクレーでは、印刷後も漆喰の炭酸化がゆっくりと進み、顔料を覆うように炭酸カルシウムの薄い層が形成されます。これが、一般的なインクジェットプリントとは異なる、独特の質感と長期保存性につながっています。メーカーの説明では、この硬化・熟成は数か月から1年ほどかけて進行するとされています。
そのため、完成したフレスコジクレーは、単なる「特殊なインクジェットプリント」と呼ぶには少し違う存在なのです。
だからこそ、色を合わせるのが難しい
ここからが、柿の木坂写真工房がフレスコジクレーを扱う上で、特にこだわっている部分です。
写真をデジタルデータとして完成させたとき、モニター上には「この色にしたい」という明確な基準があります。
ところが、そのデータをプリントしたからといって、必ずしも同じ色になるわけではありません。
プリンターの特性はもちろん、インク、用紙、表面の質感、インクの受容の仕方など、さまざまな条件によって色の出方は変わります。
そしてフレスコジクレーの場合、その「用紙」が普通の紙ではありません。
漆喰そのものがプリントメディアなのです。
そのため、一般的なインクジェット用紙向けに用意されたカラープロファイルを、そのまま使えばよいというものではありません。
そこで私たちは、フレスコジクレー専用のカラープロファイルを、自社で作成しています。
i1Pro 2とi1iOで、色を測る

使用するのは、X-Riteの分光測色計i1Pro 2と、自動スキャニングテーブルi1iOです。
i1iOは、i1Pro 2と組み合わせて使用することで、印刷したカラーチャートを自動的に読み取ることができます。数百色にも及ぶカラーパッチを、人の目で一つひとつ測定するのではなく、機械が順番に測色していきます。X-Rite自身も、i1iOをi1Pro/i1Pro 2用の自動チャート測定システムとして位置づけています。
一見すると、とても便利な機械です。
実際、とても便利です。
しかし、機械が自動で測ってくれることと、正しいカラープロファイルが簡単に作れることは、同じではありません。
特にフレスコジクレーでは、ここに一手間を加えています。
印刷して、すぐには測らない

まず、フレスコジクレーに1600色のカラーパッチをプリントします。
そして、ここで待ちます。
三日間。

印刷直後のフレスコジクレーは、まだ完成した状態ではありません。
漆喰にインクが浸透し、その後も漆喰の硬化が進んでいくからです。その過程でも、色は変わってゆきます。
私たちは、印刷したカラーチャートを三日間乾燥させ、色の状態を落ち着かせた上で測色します。
その後、i1Pro 2とi1iOによって、一枚のチャートに並んだ大量のカラーパッチを順番に測定。

その測定結果をもとに、フレスコジクレーと使用するプリンター、インクの組み合わせに適したカラープロファイルを作成します。
これは、単に「色見本を測っている」のではありません。
デジタルデータとして完成させた写真を、フレスコジクレーという特殊なメディア上で、できるだけそのままの色として再現するための仕組みを作っているのです。
なぜ、そこまで手間をかけるのか

写真は、モニターの中だけで完成するものではないと私たちは考えています。
特に、フレスコジクレーのように、独特の質感と長期保存性を持つプリントではなおさらです。
漆喰の微細な凹凸によって光が複雑に拡散し、一般的なインクジェット用紙とは異なる自然な奥行き感が生まれる。それもフレスコジクレーの大きな魅力です。
しかし、その魅力をきちんと引き出すためには、単純にプリンターへ紙をセットして印刷すればよい、というわけにはいきません。
その素材がどのように色を受け止めるのかを知り、その素材に合わせてプリントする。
私たちが自社でカラープロファイルを作成しているのは、そのためです。
もちろん、i1iOがあれば誰でも簡単に同じ結果を得られる、というものでもありません。
どのようなチャートを作るのか。
どの設定でプリントするのか。
どのタイミングで測色するのか。
測定した結果をどのようにプロファイルへ反映するのか。
そして、実際に出力した写真を目で確認し、モニター上のデータとプリントを照らし合わせる。
こうした工程を積み重ねて、ようやく「この環境なら、この色を再現できる」という基準ができあがります。
数百年先にも残すために
フレスコ画には、500年以上の時を経ても現在まで残っている作品があります。
もちろん、現代のフレスコジクレーがそのまま何百年、何千年も保存できると断言することはできません。保存環境や照明、紫外線、湿度など、さまざまな条件によってプリントの寿命は変わるからです。
一方で、フレスコジクレーは、漆喰の炭酸化によって顔料を保護する独自の仕組みを持ち、一般的なインクジェット用紙と比較して優れた耐光性が確認されています。日本写真家協会の技術研究会でも、一般家庭内で100年間に相当する紫外線量を照射する試験結果が紹介されています。
だからこそ、強い紫外線や極端な湿度などを避け、適切な環境で保存することで、非常に長い時間をかけて作品を残していくことが期待できます。
写真を「今日きれいに見る」ためだけではなく、
何十年、何百年先にも残していく作品として仕上げる。
そのために、私たちは撮影だけでなく、プリントするところまで自分たちの仕事だと考えています。
フレスコジクレーという特殊な素材に対して、自分たちで色を測り、自分たちでプロファイルを作り、自分たちの目で仕上がりを確認する。
それは少し手間のかかる方法かもしれません。
けれども、長く残したい写真だからこそ、私たちはその手間を惜しみません。
フレスコジクレープリントも承っています。
柿の木坂写真工房では、フレスコジクレープリントも承っております。遠い未来に残したいお写真をとお考えの方には是非お進めいたします。






