梅雨の日にお届けした、一枚の家族写真。

関東甲信地方も梅雨入りし、街はしっとりと雨の季節を迎えました。

雨の日は、つい外出がおっくうになりがちです。しかし、写真にとって梅雨は決して悪い季節ではありません。

柔らかく回り込む光。雨に濡れて深みを増した緑。そして、どこか落ち着いた空気感。

この季節だからこそ写せる表情があります。

そんな梅雨空の一日、工房のすぐ近くにお住まいのお客様のもとへ、額装したご家族写真をお届けしてまいりました。

今回お作りしたのは、大切なご家族の一枚をフレスコジクレーで仕上げた作品です。

目次

漆喰に写真を定着させる、特別なプリント。

フレスコジクレーは、「フレスコ(漆喰)」を塗布した特殊なペーパーへ、顔料インクを吹き付けて制作する非常に珍しいプリントです。

最大の特徴は、まだ乾燥していない漆喰層にインクを定着させること。

漆喰が乾燥するにつれて顔料は強固に定着し、一般的なインクジェットプリントでは得られない、独特の質感と奥行きを生み出します。

さらに、このプリントは完成した瞬間がゴールではありません。

乾燥後も、漆喰に含まれる水酸化カルシウムが空気中の二酸化炭素とゆっくり反応し、表面には炭酸カルシウムの薄い透明膜が形成されていきます。

この穏やかな化学変化は、およそ半年かけて少しずつ進み、作品は時間をかけて成熟していきます。

そのため、一般的な写真用紙のように厳密なICCカラープロファイルを作成することは事実上できません。

私たちは、この特性を十分理解したうえで、乾燥環境や経時変化まで考慮しながら、一枚一枚色を追い込んでいます。

湿度50%以下の室内で自然乾燥させると、およそ3日ほどで色味はほぼ安定します。その後は半年という長い時間をかけて、作品はゆっくりと完成へ向かっていくのです。

こうして生まれた写真には、モニターでは決して表現できない、柔らかな質感と存在感があります。

写真が暮らしの一部になる瞬間。

そして、お客様はその作品のために、とても素敵な額をご用意くださいました。

額装された写真は、一枚の「プリント」から、ご家族の暮らしを彩る「作品」へと姿を変えていきます。

写真館というと、どうしても撮影している場面が注目されます。

けれど私たちにとって本当に嬉しいのは、その写真がご自宅の壁に飾られ、ご家族の日常の中に溶け込んでいく瞬間です。

ふと目に留まった家族写真を見て、撮影した日のことを思い出す。

「この時、小さかったね。」

そんな何気ない会話が生まれる。

写真には、記録以上の力があります。

暮らしの中で何度も眺められ、年月を重ねるほどに価値を深めていくものだと思っています。

柿の木坂写真工房は、撮影したその日だけではなく、10年後、20年後も楽しんでいただける写真づくりを大切にしています。

これからも、一枚一枚を丁寧に仕上げ、末永く愛される写真をお届けしてまいります。

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