百聞は一見に如かず

日本人の適応力というのは、本当にすごいものだと思います。

長い歴史の中で、海外から入ってきた文化や技術を積極的に取り入れながら、それを単に真似るのではなく、日本らしい形へと昇華してきました。

和服と洋服、和食と洋食、建築や芸術に至るまで、その柔軟さは世界でも珍しいものではないでしょうか。

ただ近年は、少し様子が変わってきたようにも感じます。

次々と新しい技術やサービスが生まれ、便利になればなるほど、一つひとつの文化や価値観を自分たちのものとして育てていく時間が少なくなっているように思うのです。

スマートフォンひとつで世界中の情報に触れられる時代になりました。

それは素晴らしいことですし、私自身もその恩恵を日々受けています。

けれど、ときどき思うのです。

画面の向こう側を知ることと、その場所へ実際に足を運ぶことは、やはり別物なのだと。

子どもの頃、自転車に乗れるようになった日のことを今でも覚えています。

徒歩で行ける範囲しか知らなかった世界が、一気に広がったような感覚がありました。

やがて電車に乗るようになり、都内へ、関西へ、東北へ、北海道へ。

旅先で出会う人々の言葉や空気、風の匂い、光の色、土地ごとの時間の流れ。

そうしたものは、本や写真だけでは決して伝わらないものでした。

実際にその場に立つことで初めて感じられることがあります。

写真という仕事をしているからこそ、なおさらそう思うのかもしれません。

「百聞は一見に如かず」。

古くから伝わる言葉ですが、便利な時代になった今だからこそ、その意味を改めて感じています。