ラージサイズセンサーのゆとり
柿の木坂写真工房では、一部の出張撮影を除き、FUJIFILMのGFXシリーズを使用しています。
GFXシリーズの特徴は、一般的なフルサイズセンサーよりもさらに大きな「ラージフォーマット」と呼ばれるセンサーを搭載していることです。最上位機種には1億画素を超えるモデルもあります。
では、なぜ私たちは、そこまで大きなセンサーを持つカメラを使うのでしょうか。
単純に「画素数が多いから」という話ではありません。
むしろ私が重要だと思っているのは、センサーサイズが大きいことによって生まれる「ゆとり」です。
カメラの性能を伝える際には、「何百万画素」「何千万画素」という数字の方が、どうしても目を引きます。数字が大きければ、「きっと画質も良いのだろう」と思うのは自然なことですし、実際、画素数が多いことには解像度という明確なメリットがあります。
ただし、画素数が多ければ、それだけで無条件に画質が良くなるわけではありません。
そこには、「その画素を、どれだけ余裕を持って受け止められるか」という問題があります。

センサーサイズと画素数の相関
少し分かりやすくするために、iPhone 17 Pro Maxのメインカメラ(1倍)と比較してみましょう。
このカメラは相当に性能が良いことで知られており、実際、私自身も非常に便利に使っています。写真を仕事にしていなければ、ほとんどの用途はこれで足りてしまうのではないかと思うほどです。
そのiPhoneを重箱の隅をつつくように批判したいわけではありません。
これほど小さなセンサーで、ここまでの写真を撮れる事が驚異的なだけです。
公表されている情報をもとにすると、iPhone 17 Pro Maxのメインカメラは、約1/1.28インチ型、面積にして約71mm²のセンサーに4,800万画素を搭載しています。
一方、GFX50S IIは、44mm×33mm、面積にして約1,452mm²のセンサーに約5,140万画素を搭載しています。
つまり、
センサーの面積は約20倍。
しかし、画素数はほぼ同じ。
この違いは、かなり大きな意味を持っています。
これを分かりやすくするために、光を「水」、画素を「容器」に置き換えてみます。
同じ数の容器に水を入れるとしても、小さな容器に入れるのと、大きな容器に入れるのとでは、一つの容器が受け止められる量が違います。
小さな容器は、すぐにいっぱいになります。
大きな容器なら、相当余裕があります。
カメラのセンサーでも、これに似たことが起こっています。
画素には、受け取った光を電気信号として蓄えることのできる容量があります。
これをフルウェル容量と呼びます。
もちろん、センサーサイズが20倍だから、単純に1画素の容量が20倍になる、という単純な話ではありません。画素の設計や世代、センサーの構造などによっても変わります。
しかし、より大きなセンサーに小さなセンサーと同じ数の素子(画素)を配置すれば、一つ一つの画素は大容量になります。
ここに「ゆとり」が生まれるのです。
そして、このゆとりが、写真の明るい部分から暗い部分までをどれだけ階調豊かに記録できるか、つまりダイナミックレンジにも関係してきます。
水が容器から溢れてしまえば、それ以上は溢れるばかりです。
光も同じで、センサーが受け止められる限界を超えると、それ以上の光を取り込める、その部分は飽和してしまい、明るい部分の情報が失われます。
いわゆる「白飛び」です。
反対に、暗い部分では、光が少なすぎることによって信号とノイズの差が小さくなり、階調を滑らかに残すことが難しくなります。
つまり、大きなセンサーのメリットは、単に「たくさんの画素を載せられる」ということだけではありません。
光を受け止め、処理するための余裕を持ちやすい。
私は、この「余裕」がとても大切だと考えています。
そして、その余裕があるからこそ、明るいところから暗いところまでの階調をより丁寧に扱うことができ、結果として、肌の色や微妙な色の変化なども含めた、豊かな写真表現につながっていきます。

大きなセンサーが生み出すもの
もちろん、これはiPhoneのカメラが悪いという意味ではありません。
むしろ、これほど小さなセンサーと限られた筐体の中で、これだけの写真を撮れることは、本当に素晴らしい技術だと思います。
日常の写真であれば、必要にして充分どころか、充分過ぎるほどの性能でしょう。
それでも、柿の木坂写真工房がラージフォーマットを使う理由があります。
一つは、豊かな階調を扱える余裕。
そしてもう一つが、大きなセンサーならではの被写界深度のコントロールと、美しいボケです。
カメラには、1インチ、マイクロフォーサーズ、APS-C、フルサイズなど、さまざまなセンサーサイズがあります。
詳しく説明すると、それだけであくびが出るほど長い話になってしまいますので、ここでは大雑把に、
1インチ < マイクロフォーサーズ < APS-C < フルサイズ < ラージフォーマット
という順に、センサーが大きくなると考えてください。
一般論として、センサーが大きくなれば、同じ画角・同程度の構図を得るためのレンズ設計との組み合わせによって、より浅い被写界深度を得やすくなります。
一方で、大きなセンサーにも当然、弱点や代償があります。
カメラ本体も大きくなります。
レンズも大きく、重くなります。
機材を運ぶ負担も増えますし、撮影時の機動力も落ちます。
つまり、
センサーサイズが大きくなるほど、写真表現にはゆとりが生まれる。
しかし、機動力という意味では、逆に不利になる。
このバランスをどう考えるかです。
そのため柿の木坂写真工房では、撮影内容によって機材を使い分けています。
スタジオ撮影では、原則としてラージフォーマット。
機動性を優先する撮影では、APS-Cセンサーのカメラ。
これまでライカをはじめ、さまざまなフルサイズセンサーのカメラも使ってきましたが、ここ5年ほどで、「スタジオはラージフォーマット、スナップ系はAPS-C」というスタイルが定着してきました。

オーバースペックでも
スタジオ撮影ではラージフォーマット。
ということは、たとえ証明写真であっても、このカメラで撮影するということです。
「証明写真に、そこまで必要なの?」
そう思われるかもしれません。
確かに、ある種異常なオーバースペックです。
でも私は、証明写真だからこそ、カメラマンの技量が問われると思っています。
- 証明写真は、水平・垂直が正しく取れているか。
- 被写体であるお客様とカメラが、正しく平行になっているか。
- 顔の向きはどうか。
- 光は適切か。
- 影はどうか。
- 目線はどうか。
- こうした、写真の基本中の基本を、容赦なく突きつけてくるのが証明写真です。
写真とは、3次元に存在する人や物を、2次元の平面へ置き換える技能です。
「写真写りが悪い」
「レンズが悪い」
「このカメラはあまり良くない」
もちろん、そういうことが全くないとは言いません。
しかし、より良い写真を撮るために必要なものは、それだけではありません。
- 水平、垂直、平行。
- 明暗比。
- シャッターチャンス。
- 構図。
- 光の読み方。
- 被写体とのコミュニケーション。
- そして、体力や辛抱強さ。
本当に、様々な基礎が積み重なっています。
だからこそ、私は「よりキャパシティの高い機材を使う」ことを、カメラマン自身への一つの戒めにしています。
機材に余裕があれば、少なくとも「カメラの性能が足りなかった」という言い訳を、一つ減らすことができます。
これは、柿の木坂写真工房が開業したときから、一貫している姿勢でもあります。
アナログ時代には、手焼き写真という方法で、一枚一枚の写真と向き合いました。
デジタルになってからはRAW撮影を行い、カラーマネージメントシステムに則った現像を行う。
そして、最終的にはアーカイバルを前提とした仕上げを考える。
時代が変われば、道具も変わります。
撮影方法も変わります。
写真を取り巻く技術も、変わり続けています。
それでも、変えたくないものがあります。
今日より明日。
明日より明後日。
少しでも良い写真をお届けできるようにすること。
そのために、できるだけ余裕のある道具を使い、できるだけ丁寧に仕事をする。
そして、機材の性能に甘えるのではなく、むしろその性能を言い訳にしない。
写真は、どこまでやっても「これで十分」と言い切ることが難しい仕事です。
だからこそ、私たちは油断をしない。
それが、柿の木坂写真工房の写真に対する姿勢なのだと思っています



