ありがとう。六本木ビジネスアパートメント

2005年7月1日。
六本木に事務所を構えました。

それまでは、自宅を本店とする一人法人。実質的には、フリーランスのカメラマンでした。

どこか大きなフォトスタジオから、安定した仕事をいただいていたわけではありません。仕事のほとんどは、ホームページを見つけてくださったお客様と、そのお客様からのご紹介でした。

当時の私が考えていたのは、インターネットという、まだまだ広大なブルーオーシャンに、ホームページという小さなお店を置いておけば、いつか誰かが見つけてくれるのではないか、ということでした。

持っていたのは、ホームページを作ることのできる程度の技術と、直感と、情熱。そして、カラーの暗室です。

3室しかない自宅の、わずか四畳半の部屋をDIYで改造してカラー暗室にしました。そこで、カラーの手焼き写真を、納得のいくまで、寝食を忘れて焼き続けました。

いずれ写真はデジタルへ移っていくだろう。10年もすれば、ほとんどがデジタルになっているかもしれない。

それは、当時から何となく分かっていました。

けれど、手焼きの写真には、デジタルとは明らかに違う、人を惹きつける何かがある。その何かは、きっと残っていく。

そう信じていました。

真摯に、情熱を持って、真剣に取り組めば、思いはいつか伝わるものです。

問題は、時間でした。

お客様に見つけてもらうまでに何年もかかってしまっては、結婚式を撮影する仕事では意味がありません。

結婚式の撮影を依頼するお客様は、結婚を決めてから挙式の日までという、限られた時間の中でカメラマンを探します。こちらがどれほど真剣に仕事をしていても、その期間に見つけてもらえなければ、仕事には結びつかないのです。

そして、願いは通じました。

ホームページを立ち上げて半年ほど経った頃から、少しずつ、そして一気にオファーが入るようになりました。

そのたびに埼玉の自宅から、まるで海外旅行にでも行くような大きなキャリーバッグにサンプルアルバムを詰め込み、東京の少し背伸びをしたカフェへ出向きました。

プレゼンをして、受注をして、打ち合わせをする。

最初は月に一、二件だった仕事が、やがて週に一件、二件となり、多い日には一日に四組のカップルと打ち合わせをするようになりました。

土日は結婚式の撮影。
平日は打ち合わせ。
手焼きプリントをするのは、深夜や早朝。

そうして、打ち合わせの拠点として事務所を構えることになりました。

場所は六本木。

六本木ヒルズが開業したのが2003年。そのすぐ足元で、私たちの小さな活動が始まりました。

2005年7月からの一年半。

振り返ってみると、本当にいろいろなことがありました。

ちょうどこの頃、婚礼写真の世界でもデジタルフォトが急速に台頭してきました。

イースターエッグも会社です。

手焼き写真の優位性は、まだまだ揺るぎないものだと思っていましたが、デジタルの技術が急速に進歩していくことは明らかでした。

もしかすると、いつか手焼きをも凌駕するかもしれない。

さらに、フィルムや印画紙、現像液の価格も上がり始めていました。将来的には、必要な材料そのものが手に入りにくくなる可能性だってあります。

デジタルフォトについて、当時の私はほとんど何も知りませんでした。

けれど、それはおそらく、当時の多くのフォトグラファーにとっても同じことでした。

だったら、早く始めるしかない。

そう考えました。

銀座のApple Storeへ出向き、Power Mac G5に積めるだけのメモリーとハードディスクを組み込んでもらいました。事務用にはG4のMac miniも購入しました。

デジタルフォトについてのセミナーがあれば、聞いたことのない内容でも、とにかく出掛けました。

そこで得た知識をすぐに実践してみる。

うまくいかなければ、その原因を考える。

そして、また試す。

そんなことを繰り返していたように思います。

そうして過ごした一年半は、「あっという間」という言葉でも足りないほど、一瞬で過ぎていきました。

いつの間にか、カメラマンも10名を超えていました。

もう、六本木の事務所は単なる打ち合わせの拠点ではなくなっていました。

六本木の事務所は、駅から歩いて一分。

これは、実際に使ってみると想像以上に便利でした。

少し古く、夜になると六本木らしい夜の街の雰囲気に包まれる。そして、とても古い、何でもありの雑居ビル。

決して華やかな場所ではありませんでした。

それでも、私たちにとっては、大切な場所でした。

ここで、たくさんのお客様と出会いました。

ここで、仕事について考えました。

ここで、フィルムからデジタルへ、大きく変わろうとしていた写真の世界に向き合いました。

そして、ここからイースターエッグという会社が、少しずつ形を変えながら成長していきました。

そんな場所とも、本当に今日でお別れです。

もう少し雰囲気の良い場所へ移る時が来たのだと思います。

カメラマンたちの力を借りて、昨日までに、無事に引越しを終えました。

新しい場所は、南青山のデザイナーズマンションの一室です。

もう少し広ければ、そのまま住んでしまいたいくらいです。

……というのは、少し言い過ぎでしょうか。

青山一丁目駅から徒歩2分。

アクセスは申し分ありません。

実際には、利用する地下鉄によって駅の中を少し遠回りしなければならないこともありますが、それでも出口から2分というのは、やはり魅力です。

新しい青山のアトリエも、これからたくさんのお客様を迎える場所になることでしょう。

六本木で始まり、六本木で育ててもらった一年半。

思えば、あの小さな事務所がなければ、今の私たちはありませんでした。

たくさんの出会いがあり、たくさんの仕事があり、たくさんのことを学びました。

そして、私自身も、少しだけ成長できたように思います。

短い間でしたが、本当にありがとう。

2007年、新しい年が始まりました。

私たちも、また新しい場所から、新しい一歩を踏み出します。

六本木のビジネスアパートメントに、心からの感謝を込めて。

ありがとう。

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